2025年10月4日土曜日

聴いたもの(2025年9月〜)

 25/26シーズンが始まりました。

  • 9/26/2025: Oper Frankfurt / Simone Di Felice
    プッチーニ:『マノン・レスコー』

    『マノン・レスコー』はプレヴォの原作とマスネ版のオペラを観ていたのと、妻がアマチュア団体でやっていたので興味を持ち、フランクフルトに旅行がてら観てきた。音楽はプッチーニだけあってやはり(有名な間奏曲をはじめ)非常にいいのだが、名場面をかいつまんだ構成になっている台本がちょっと物足りない感は否めなかった(特に、結局マノンがデグリュを愛するようになった共同生活の場面−−マスネ版では最初の感情的なピークになっている誘拐のシーン−−がまるまる端折られて1幕と2幕の間に追いやられている所)。フランクフルトのオペラは数年連続でドイツの批評家団体の「今年のオペラハウス」に選ばれているだけあって制作チームが優秀なのだろうか、演出はスタイリッシュな現代読み替えでよかった(舞台中央にどでかいLOVEという文字が最初から最後までそびえている)。劇場は戦後のモダニズム建築で、メトロポリタンとかに近い趣を感じたが、シャンデリア付きの宮廷劇場に慣れてしまった身からするとやや殺風景に感じた(フランクフルトらしいと言えばそう)。

  • 10/7/2025: 第19回ショパン国際ピアノ・コンクール 一次審査(朝の部)

    Yuya Nishimoto(日本)
    夜想曲 ハ短調 作品48-1
    ワルツ 変イ長調 作品34-1
    バラード ヘ長調 作品38
    練習曲 イ短調 作品25-11

    Vincent Ong(マレーシア)
    夜想曲 ホ長調 作品62-2
    練習曲 イ短調 作品10-2
    幻想曲 ヘ短調 作品49
    ワルツ 変イ長調 作品42

    Arisa Onoda(日本)
    夜想曲 ハ短調 作品48-1
    練習曲 ロ短調 作品25-10
    ワルツ 変イ長調 作品42
    バラード ト短調 作品23

    Pitor Pawlak(ポーランド)
    ワルツ 変ホ長調 作品18
    練習曲 嬰ト短調 作品25-6
    夜想曲 ハ短調 作品48-1
    幻想曲 ヘ短調 作品49

    Yehuda Prokopowicz(ポーランド)
    夜想曲 嬰ヘ短調 作品48-2
    練習曲 イ短調 作品25-11
    ワルツ 変イ長調 作品42
    幻想曲 ヘ短調 作品49

    研究室のポーランド人学生が帰省のついでにワルシャワを案内してくれるというので、2泊3日でワルシャワに行ってきたのだが、あいにく彼が当日体調不良で来られなくなってしまった。時間を持て余してしまった上、散歩にもいまいちな天気だったので、雨宿りも兼ねて急遽ショパンコンクールの当日券列に並んでみたが、2時間半かけてホールに入ったころにはすでに4人目の奏者になっていた。

    姓のアルファベット順に演奏するので、日によってはずっと中国人のゾーン(XYZ)や中・韓の李さんが大集合するゾーン(L)などがあるのだが、この日の朝(N-P)は日本人とポーランド人が多かった(聴く方も日本人が異常に多く、列に並んでいる間常に日本語が聴こえてきた)。

    自分の聴けた日本勢二人は、ちょっと空気に飲まれてしまっていたというか、緊張しながら弾いているのが伝わってきてしまったのが残念だった(特にワルツ)。Onodaさんのノクターンとかは、よく考えられている感じがして滑り出し好調だったのだが、ワルツの途中でコケてからうまく立ち直れなかったのが可哀想だった。マレーシアのOngは逆にかなり泰然自若としていて、聴衆が静まり返る前に(ほとんど予備動作なしで!)弾き始めることで、逆説的に注意をつかむことに成功していた。タッパがない(というかめちゃくちゃ背が低い)だけに、ffの迫力みたいなところはわりと地味なのだけれど、語りかけるようにしっとり弾くところがうまく(特にノクターン)、選曲やワルツをアウトロ的に配置した独特の曲順など、その強みを意識的に活かす戦略を感じた。Ongととにかく対照的だったのがポーランド勢一人目のPawlakで、彼はまずニコニコしながら小走りで登場すると、あの華やかなワルツ1番を実に楽しそうに弾きはじめ、何かそこにはホームゲームの余裕というか、見知った観客に向けて弾いている気楽さみたいなものが感じられた。観客もそれに呼応して、(アジア人が6人続いた後にやっと)地元のヒーローが登場した!というような興奮が漂い、ワルツの終わりに拍手を我慢するのがやっとの風であった。彼はとにかく背が高く、アゴーギグなどもちょっと大袈裟すぎるぐらいにやるタイプで、ミスタッチとかも全然するのだけれど、もっと大きい構造での盛り上げが上手いので、そういうことは本人も気にしないし、客にも気にさせない説得力みたいなものがあった。最後のProkopowiczは若干19歳らしいが落ち着いていて、しっかりしたテクニックがあり、特にsubito pへの場面転換みたいなところが特にうまかった。今日チェックしたところ観客席での印象どおりやはりOng、Pawlak、Prokopowiczの3人が一次を通過したようだった。

    そんなわけで、それほど真面目にチェックしていたわけでもなかったショパンコンクールに予想外の形で現地参戦してしまい、これから目が離せなくなってしまった。二次では自分もレッスンでやった前奏曲もやるみたいなので、特に生で聴いた3人がどんな演奏をするのか楽しみだ。お土産に、ロゴ入りの帽子とワルツの楽譜を買ってきた。

    (追記)その後もショパンコンクールを断片的にYouTubeの中継で追いかけていたが、Ong, Pawlak, Prokopowiczの3人が3次審査に進出、Ongは5位入賞とかなり健闘していた。今後の活躍に期待。

  • 10/24/2025: Mathias Pintcher / MPhil
    ベリオ:シンフォニア
    ドビュッシー:管弦楽のための映像

    めちゃくちゃ暇だったので当日にチケットを取って聴いてきた。ベリオ生誕100年の誕生日記念演奏会ということでちょっと割引になっていたのだが、さすがにみんな金曜の夕方にゴリゴリの現代音楽を聴きに来る気分にはならないのか思いの外空いていた。シンフォニアはイェールの(たしか学部)学生オケがスウィングルズを呼んでやっていたので、生で聴くのは2回目。今回は2列目に座ったので、ヴォーカルの人たちが目の前でレヴィ=ストロースを詠唱したり、"Keep Going!"を叫んだり、あるいは弦楽器が超絶技巧のソロをやったりしているのが間近で見れたのがかなり楽しかった。あと目玉の3楽章では引用楽句が空間的にいろいろな方向から聴こえてくるのが面白かった。管弦楽のための映像は個人的になんとなくとっつきにくく感じる曲。「イベリア」のコラージュっぽさとか、「春のロンド」で「版画」、”諸相”に引き続き「もう森へは行かない」を擦っているところとかを、ベリオの創作姿勢と呼応させているプログラムなのかな?という理解をした。

  • 10/26/2025: Dimitri Jurowski / Julius Asal / Münchner Symphoniker
    チャイコフスキー:『エフゲニー・オネーギン』よりポロネーズ
    モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
    チャイコフスキー:交響曲第4番

    地味に聴きに行ったことがなかったミュンヘン交響楽団。ディミトリはオペラの監督のウラジーミルと兄弟らしい。ピアノを弾いているところを間近で見れたらおもしろかろうと思ってまたも最前列の安い席で聴いてきたが、チャイコフスキーを聴くには近すぎた。アザルはスカルラッティとスクリャービンと即興を混ぜこぜにしたかなりコンセプチュアル
    なアルバムを出している人というのは知っていて(K466をレッスンでやっていた時に聴いていた)、やっぱりカデンツァとかをかなり工夫してやっているという印象を受けた。ミュンヘンにしては携帯鳴らしてる人とか楽章間(あげくソリストアンコール[モンタギュー家とキャピュレット家]の中間部の入り!)で拍手している客が多く、聴きにきている層が違うのか?と不思議だった。

  • 10/302025: Steinwayhaus am Maximilianplatz "Let's go Ultra" party
    ラフマニノフ:2台ピアノのための組曲1番『幻想的絵画』

    スタインウェイがベントレーとコラボして作った鍵盤・本体が真っ白/真っ黒の「ウルトラ」ピアノの販促パーティーでピアノの先生が演奏するというので招待を貰って聴いてきた。レールモントフやバイロンの詩にインスパイアされているらしく、ナイチンゲールの鳴き声や波や鐘の音の模倣をやっているところが多く、印象主義的な曲だった。階下のショールームでスタインウェイのピアノを色々触れて面白かったが、アップライトでも家が買えそうな値段がしたので目玉が飛び出るかと思った。

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