2025年6月16日月曜日

聴いたもの(2025年6月〜)

24/25シーズン末に聴いたものです。
  •  6/8/2025: Staatsoper / Rustioni
    マスカーニ:『カヴァレリア・ルスティカーナ』
    レオンカヴァッロ:『道化師』

    仕事が忙しかったり体調が悪かったりでしばらく公演の類に行けていなかった。いわゆるCav/Pagのダブルビルの新制作で、『カヴァレリア』冒頭に「人間喜劇をご覧に入れよう」といった語りの台詞を挟んだり、黙役で視覚的にトゥリッドゥとカニオを繋げたり、間奏曲の間に両作の登場人物が旅路ですれ違う演出を入れたりと、両作を繋げる工夫がいろいろされていた。実演を続けて観たのは初めてだったが、『道化師』のほうがオペラとして出来がいいという感想を抱いた。『カヴァレリア』は完全に話が煮詰まったところから始まるために、特に前半の音楽の盛り上がりが劇から乖離しているような気が拭えなかった。また筋のキーとなるアクションというか気持ちの転換がアルフィオのそれを除いて非常に淡い(サンタの裏切り、トゥリッドゥの後悔)ので、これを効果的に見せる・聴かせるのは至難だと思った。『道化師』は「イタリアからミュンヘンにやってきたディナーショーの一座」という細かい読み替えがされており、なぜか舞台上に載せられたテレビで1970年のメキシコW杯イタリア対西ドイツ戦が流れる一幕があった。トニオの劇中劇のアリアをカニオへの当てつけのように歌わせ、また(シェフを兼ねている)トニオにナイフをカニオへ渡させることで、彼のネッダ殺しへの共犯性を強調していたのが面白かった。

  • 6/14/2025: MPhil / Nelsons / Willis-Sørensen 
    ドビュッシー:『牧神の午後』への前奏曲
    ワーグナー:ヴェーゼンドンク歌曲集
    ベルリオーズ:幻想交響曲

    いつの間にか11年前にボストンで観た時ぐらい細くなっていたネルソンス。前半は気だるい感じの2曲で、『牧神』は1000人以上の人間が息を潜めてフルート一本を聴くという体験が良かった。ヴェーゼンドンクはリンツのブルックナーフェストでも聴いたがやはり普通にモダンオケのほうが映える。3年ぶりの幻想交響曲はまた同じクラリネットのコンビが頑張っていた。ネルソンスは変なことはあまりしないが、最初のイデーの提示や、3・4楽章の冒頭などを筆頭に、ppをかなり偏執的に、ほとんどかがみ込むように振っていたのが印象的だった。1楽章の呈示部小結尾のクレッシェンドの頂点で完全に飛び上がって宙に浮いている瞬間があり笑ってしまった。観ていて非常に楽しい指揮。

  • 7/19/2025: Staatsoper / Weigle
    リヒャルト・シュトラウス:『ダナエの愛』

    夏の一時帰国前にオペラまつりを何か一公演だけでも、ということで新制作を見逃していたダナエを観ることにした。古代を舞台にしているという意味で題材的には『エレクトラ』『サロメ』に近いが、愛をテーマにしたコメディ(?)という中身は『薔薇の騎士』を彷彿とさせる。借金で破産寸前のエオス王国の姫ダナエは、触ったもの全てを金に変える力を持つリディアの王ミダス(実はユピテル神が変装している)と政略結婚させられそうになるが、ミダスの従者(実は本物のミダス)の真摯な愛の告白に心を打たれる。ダナエと結ばれた本物のミダスは金の力を失い元のロバ使いに戻るが、二人は貧しいながら愛のある幸せな余生を送る。神が人間に試練を与えながらウロウロしているという意味では指輪っぽくもあり、またヴィランが最終的に主人公の愛の力を寿いで終わるというデウス・エクス・マキナ的展開はたとえば『セルセ』あたりを思い起こさせもした。総じて笑いながら観ていいのか真面目に観るべきなのか、微妙な温度感の作品だった。音楽はオーボエ協奏曲とかの境地に至る過渡期的な作風と思われ、特に作中で重要な役割を果たす金を表現したキラキラした音響が面白かった。40年に作曲され、44年に予定されていた初演が戦況悪化でキャンセルされたという経緯を考えると、リヒャルト自身もエオス王国に第三帝国を重ねていたと考えるのは自然な読みだと思うが、今回の制作ではエオス王ポルックスが明らかにドナルド・トランプの格好をして登場し、なにかそういう時事言及が行われていた。舞台装置はこれと整合的にニューヨークの高層オフィスを模していて、王の臣下や債権者もビジネススーツで登場する。オフィスの壁は一面ガラス張りの窓になっており、高層ビル群が映像として映し出されているのだが、金の力が失われた第3幕では少しずつ街が炎上してゆき(オフィス内部もゾンビ映画みたいに荒れ果てている)、最終的に戦後すぐの瓦礫だらけのミュンヘンの映像が流れ、散歩している晩年のシュトラウスの映像が大写しになって終わった。コメディーリリーフとして登場する王の姪4人組(レダ・セメレー・エウロパ・アルクメネ -- いずれもユピテルとの過去の情事をロマンチックに歌い上げ復縁を迫る)がそれぞれブレードランナーみたいなボディコンの衣装を着ていたのがカッコよかった。総じて演出は意欲的でスタイリッシュだったが、話がすごく面白いオペラという感じではなかった(話の教訓を客の方を向いて歌ったりするところが時々あり野暮ったい)。まあしかしミュンヘン地元の作曲家ということもあり、バイエルンがやらねば誰がやる、というのも納得。

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