アメリカの博士課程に入学する方法

色々あって、この9月からイェール大学で神経科学の博士課程の院生をしています。
日本の大学の研究競争力の低下などが騒がれる中(参考: Nature Index 2017 Japan)、研究キャリアを志す学生にとって、アメリカでの学位取得は非常に魅力的な選択肢だと思いますが、残念ながら日本の大学からアメリカの大学院に学位留学する学生の数はそれほど多くないため、具体的な出願スケジュール等についての情報がそれほど広く流通していないという現状があります[1]。自分の場合も、アメリカの大学に出願しようと決めてから、実際に踏むべき手続きの全体像を把握できるまで時間がかかり[2]、それなりの期間不安な思いをしました。そこで、これからアメリカの大学院に進学する方の助けになればと思い、具体的な出願の手続きを簡単にまとめることにしました。(あくまで個人の経験談なので、詳細は各大学のウェブサイト等をあたってください。)

出願のスケジュール

アメリカの新学期は9月に始まるので、出願手続きもこれに沿って進行します。大学やプログラムによっていくらかばらつきはありますが、出願開始は9月中旬締め切りは12月1日、というところが多いようです。この締め切りから逆算して、春〜夏ごろから必要書類の準備を始めることになります。出願後は、おおむね1月中旬〜2月中旬までに書類選考の結果が発表され、2月中の現地でのインタビューを経て、3月中旬ごろに最終的な合格が発表されるという流れになります。最終的にどの学校に進学するかの意思決定の締め切りは多くの大学で4月15日に設定されています。

出願までに行うこと

アメリカの大学院への出願に必要な具体的なステップは、時系列順に次のようにまとめられます(カッコ内は、自分がその作業を行った大体の時期です)。
  1. 教員とコンタクトをとる(7月〜)
  2. テストを受ける(TOEFLおよびGRE, 7月〜11月)
  3. 奨学金に応募する(8月)
  4. 出願マイページのアカウントを作る (9月)
  5. Statement of Purposeを書く(9月〜11月)
  6. 推薦書(3通)を書いてもらう(9月〜11月)
  7. 履歴書(CV)および成績表を提出する (〜締め切り)
順に詳解します。

1. 教員とコンタクトをとる

これは日本の大学院の入試でも同じだと思いますが、アメリカの大学院出願においても、「教員と連絡がついていること」は選考を大きく左右すると思われます。自分の場合は、出願する大学を決める前に、研究テーマが自分の興味にマッチしている研究者をリストアップして、数名の先生にメールでコンタクトを取りました。メールでは、先方の研究に興味があり、大学院に出願するつもりである旨をまず伝えた上で、研究室に大学院生を受け入れる予定があるか、学会等で直接あって話せないか、という二点を訊きました。メールは何通送ってもタダなので、少しでも引っかかるところがある研究者にはなるべく躊躇せずにメールを送るのをオススメします(もちろん論文を読むなどの下調べは必須)。また、メールが返ってこなくても凹まずにしつこくコンタクトを試みるのも重要なポイントです(返信し忘れや見落としはよくあることなので)。

2. テストを受ける

アメリカの大学院への出願には、GRE General Testと呼ばれるテストの受験が必須です。GREは、いわばセンター試験のアメリカ大学院版で、Verbal(めちゃくちゃ難しいボキャブラリーのテスト)・Quantitative(センター数学1Aレベル以下の数学)・Analytical(論理が穴だらけな文章を論破する)の三部構成になっています。受験はTOEFL同様コンピューターベースで、東京だと御茶ノ水の会場でほぼ毎日実施されています(予約サイト)。特に大変なのがVerbalセッションで、ネイティブスピーカーでもほとんど使わないレベルのボキャブラリーが多数出題されるので、早めに対策をはじめることをオススメします。(参考: GRE Scores for Top Universities
General Testに加えて、GREにはSubject Testという専門分野のテストも存在し(生物・化学・英文学・数学・物理・心理学)、プログラムによっては受験推奨としているところもありますが、自分は余裕がなかったので受験しませんでした(ちなみに、東京から最寄りの受験会場は福岡です)。Subject Testをどのくらい重視するかは分野や大学によると思うので、心配であれば各自問い合わせるようにしてください。
また、英語圏外の大学からアメリカの大学に進学する場合、TOEFLのスコアを提出する必要があります。必要なスコアは低いところで87点(UCLA)、高いところで100点台後半(Harvardなど)あたりがボーダーと言われるようですが、これらは絶対的な「足切り点」ではないので、多少基準に満たない点数を取ってしまってもそれで出願を諦める必要はありません(参考: What TOEFL Score Do You Need For Your Dream University?)。
GRE・TOEFLともに、出願締め切り(12/1)までに公式スコアが(テストを主催している)ETSから大学に届いている必要がありますが、受験からスコアの送付には最大で1ヶ月程度かかる場合もあるので、早めの受験をオススメします。早めにテストを受験しておくと、万が一思うような点数が取れなかった場合に受け直しができる上、教員とコンタクトを取る際に本気度を示すことができるなどのメリットもあります。また、試験を受ける際に出願先の大学が決まっていれば、5校までは無料でスコア送付ができます。

3. 奨学金に応募する

アメリカのトップ大学院の博士課程プログラムは、大抵の場合学費免除に加えて生活費(年400万円程度)を保証してくれるところが多いので、合格さえしてしまえば基本的には金銭的な心配をする必要はありません[3]。しかし、自前で奨学金を取ってくることができれば、それ自体が能力の証明になる上、大学側にとってはコスト削減になるため、選考の際に非常に大きなプラス要因になります。アメリカでの博士号取得のために使える奨学金には、日米教育委員会のフルブライト奨学金や、いくつかの民間財団が提供しているものがあります。これらの奨学金の情報は、大学の国際支援課などのウェブサイトが充実しているので、そちらを参照してください(参考: 東京大学 Go Global)。民間財団の奨学金の締め切りは、多くが8月下旬に設定されており、たいていの場合は11月頃(=出願締め切り前)までには合格発表がされる模様です。
奨学金の出願書類を書くのはかなり骨の折れる作業ですが、これを書くことによって自分の研究興味やプランが明確になり、Statement of Purpose(後述)を書く際に助けになるというメリットがあります。教員へのメールと同じで、奨学金の応募も「数撃ちゃ当たる」ものなので、エネルギーを出し惜しみせず、応募できるものはすべて応募する心構えが大切です。

4. 出願マイページのアカウントを作る

9月中旬になると、各大学院の出願用ウェブサイトがオープンするので、アカウントを作成します。以後、必要書類の提出等は基本的にすべてこのウェブサイトを通じて行うことになります。日本で就活でいうところの「マイページ」のようなものだと思ってください。

5. Statement of Purpose を書く

アメリカの大学院出願において最も重要な提出物の一つが、Statement of Purposeと呼ばれるエッセイです。これは、就職活動でいうところの「エントリーシート」に相当します。大学によって設問の言い回し等は微妙に違いますが、基本的には、「なぜ、どのような研究を博士課程でするつもりなのか」、「どうしてそのような研究計画を抱くに到ったのか」、「自分にはその研究を行う能力がある」、「自分はプログラムが求めている学生像にフィットする」ということを簡潔・具体的・論理的に述べていく形になります(なので、一本書き上げてしまえばあとは応用が効きます)。参考までに、自分の出願したある大学の設問を下に掲載します。

"Please state your purpose in applying for graduate study. Describe your scholarly and research area(s) of interest, experiences that contributed to your preparation in the field, and your plans for your future occupation or profession. Briefly describe experiences that have prepared you for advanced study or research, and provide any additional information that may aid the selection committee in evaluating your preparation and aptitude for graduate study at ***. If you are applying for a research masters or doctoral program, you are encouraged to indicate specific research interests and potential faculty mentors."

説得力のあるStatement of Purposeを書くためには、自分自身の学生/研究者としての来歴を、筋の通ったストーリーとして語れるようにするという作業が必要になります就活で言うところの「自己分析」というやつですね。またこの手のエッセイの質を高めるには、他人にコメントしてもらうのが必須ですので、指導教官や、大学のライティングセンターなどにコンタクトをとって指導を仰ぐのを強くオススメします。

6. 推薦書(3通)を書いてもらう

アメリカの大学院への出願には推薦書が3通必要です。研究室の指導教官や、ゼミなどで深く関わった先生、社会人経験のある場合は元上司などにお願いするのが一般的なパターンのようです。自分の場合は、学部〜修士課程の指導教員の先生と、修士課程の副専攻の研究でお世話になった先生、学会でお世話になった先生の3名に推薦書をお願いしました。もしまだ出願まで時間がある場合は、「説得力のある推薦書を書いてもらえる先生を3人作る」ということを念頭に置いて色々な活動を展開していくのが良いと思います。

7. 履歴書(CV)および成績表を提出する 

以上の他に出願に必要な書類として、履歴書(CV)および学部以降の成績表があります。CVには高校以後の教育歴と、研究に関する能力や業績(受賞歴・学会発表・論文など)を書きます。成績表は、英語版の発行に時間がかかったり、原本の郵送を求められたりするので、早めの手続きを心がけたほうが良いです。

以上が出願手続きのまとめでした。ちなみに自分の場合は、昨年の11月中旬に全ての出願をファイナライズしました。

出願以降に行うこと

マイページ経由で提出した書類は、各プログラムのコミッティーによって審査され、1月中旬には書類審査の合否がメールやウェブサイト、電話等で発表されます(ただし、成績上位の学生から順に個別に合格の通知をするので、合否の否が公式に判明するのはかなり後になります)。書類審査に通過すると、キャンパスでのインタビュー(面接)に招待されます(2月中旬)。留学生の場合はSkypeで済ませる場合もあるようですが、実際に学校を訪問して直に教員や学生と話したり、キャンパスを歩いたりすることで得られる情報は非常に貴重なので、できれば現地でのインタビューに参加することをオススメします(大抵の場合交通費も支給されます)。
インタビューのスタイルは、大学にもよりますが、たいてい数名の教員と30分〜1時間ずつ話すというもののようです。自分が招待されたイェール大学とUCLAのインタビューはいずれもかなりリラックスした、ウェルカミングな雰囲気で、教員が学生を問い詰めるというより、学生が進学先を選ぶために教員の研究やプログラムについてこちらから質問をする機会、という色彩が強かったです。インタビューの前までに、自分のそれまでの研究や今後の興味を説明できるようにしておくのと併せて、教員1人につき最低2, 3本は最近の論文を読み込んで、質問を準備しておくのをオススメします。インタビューに招待した学生に合格(admission)を出す割合は、5~7割程度が普通のようです。

最後に、出願に役立つリソースを紹介します。

役に立つリソース(書籍・アプリ・ウェブサイト等)

  • Graduate Admissions Essays
    Statement of Purposeの書き方の参考書。エッセイの書き方を丁寧にステップバイステップで解説してくれるのに加え、教員へのメールの書き方や、アメリカの大学院のシステムの概説、出願スケジュールの詳細、選考の舞台裏など、役に立つ情報が満載の必携書。少しでもアメリカの大学院への出願を考えているなら今この場で注文するべき。
  • The Official Guide to the GRE General Test
    ETSの発行しているGREの模擬問題集。必携。
  • Magoosh
    GREやTOEFLの受験対策に特化した学習サイト。自分は特にGRE向けの単語のFlash CardアプリとVocabulary Builderアプリにお世話になりました(いずれも無料)。
  • The Grad Cafe
    大学院の入試情報などが載っている掲示板。個人の合否速報などが投稿される。先述の通り、アメリカの大学院は不合格が判明するのが非常に遅いため、特に自分が落ちているのかどうかをはっきりさせたい時に役立つ。
  • 理系のための人生設計ガイド
    特に具体的に役には立つということではないが、元気の出る自己啓発本。
  • 米国大学院学生会
    時折日本国内で留学説明会などを開催している。

まとめ

  • 出願は9月スタート12月1日締め切り。遅くとも7月には諸々の準備を始める。
  • 基本は「数撃ちゃ当たる」ので、面倒がらずに手数を打つ
  • とにかくGraduate Admissions Essaysを買う

[1] 全く逆の状況にあるのが中国で、清華大や北京大の卒業生は2割以上が海外院に進学するようです(ちなみにイェールのGSASの新入生約600名のうち25%が中国人からの留学生)。この日中格差は純粋な学生の知的レベルや国の教育への投資意欲の差に負う部分もあるでしょうが、むしろ中国においては「学位留学が普通だから何も考えなくても留学が自然に選択肢に入ってくる」という、情報環境の差が効いているのではないかと自分は睨んでいます。
[2] 自分はM1の夏〜秋に多少就活をしており、M2の春頃までは「数年働いてから海外で博士号」というプランを思い描いていたのですが、色々考えるうちに良い研究テーマを思いついたので、M2の初夏ごろに計画を変更して留学の準備を始めました。それでも自分の場合、指導教員がアメリカで博士号を取得していたり、アメリカへの進学を考えている/いた留学生が研究室にいたりしたので、かなりラッキーな情報環境に身を置いていたと言えると思います。
[3] イェール大学の場合、一定額以上の外部資金を自前で獲得すると、その額だけ大学からの生活費補助・学費免除額が差し引かれる(=上乗せにはならない)かわりに、ボーナスとして年間追加で数十万円が支給されるので、自分はトータルで課税前約450万円ほどもらっています。生活費が豊富に支給されるというのは自分がアメリカでの進学を目指すことにした(というより日本での博士号取得を目指さないことにした)一つの理由です。アカデミアに限らず、「自分を安売りしない」ということはキャリア選択の一つの重要な指針ですので、これから大学院に進学する方は、一応プレステージということになっている学振DC1を取っても、実質たった年100万円ぽっちしかもらえないということは気に留めておいて良いと思います((月20万×12ヶ月−学費(東大で約70万))×DC1支給期間3年/博士取得にかかる5年 = 102万)。

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