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聴いたもの(2024年10月〜)

随時更新します。
  • 10/10/2024: Staatsoper / Koenigs
    コルンゴルト:『死の都』

    おどろおどろしいタイトルから察せられる通り、ベルギーの象徴主義作家ローデンバックによる原作は「死んだ妻を忘れられない男が、妻に容姿だけは似た放蕩娘に熱を上げた挙句幻滅して殺してしまう」という陰気な筋で、これだけ聞くと『ペレアス』なり『ヴォツェック』みたいな音楽を想像してしまうが、コルンゴルトの音楽は『ティル・オイレンシュピーゲル』と『ラ・ボエーム』(とスター・ウォーズ)を掛け合わせたみたいな雰囲気で、しかも女とのいざこざを全て"夢オチ"にした上、男が過去を惜しみつつも前を向いて生きていく決意をするという(クリスマス・キャロルみたいな)改変がされていることで、なぜか『ばらの騎士』的な後味に仕上がっておりビックリしてしまった。

    特に前半、半狂乱の男がワタワタしているだけのシーン等にこれでもかとエピックな音楽がついていたりするのがあまりしっくりこないという気持ちで観ていたが、実はオチはコメディであるという前提で観直したらまた感想が変わるかもしれない。3幕の殺人に至るシーンなどはさすがに迫力があった。ウィキペディアには「過去を惜しみつつも前向きに生きる」という本作のオチが戦間期の聴衆に響いたという旨の記述があり、それは大人として戦前を経験していない1920年当時若干23歳のコルンゴルトの(いい意味での)軽々しさなのだろう(本当に祖国を失ってしまった第二次大戦後のコルンゴルトはこの作品をどう振り返ったのだろう)。作家は、妻の思い出にとらわれる主人公パウルより、若さと生の喜びに酔いしれるマリエッタに近いところに立っている。それはそれとして、台詞回しが現代的で話のテンポ感が速いので、尺の割に集中して見やすいのは素直にいいと思った。

    オケは終始シュトラウスの交響詩のような曲芸的なことをやっているのでスペクタクルとして観ていて面白かったが、リズムの複雑な部分などもうすこしメリハリを持って聴かせる余地もあったのではと思うところもあった。歌はとにかく主役2人が出づっぱりな上、音域がとにかく高く、三管編成の上から聴こえるように歌い通すのにまず一苦労、という感じで大変そうだった。舞台装置は、19世紀末の暗いブルージュを現代の画一化された郊外住宅に読み替えたうえで、その部屋を幕ごとに立体的に組み換え・積み重ね・回転させるなどしていて面白かった。特に男が妻の幻影にうなされながら街をさまようシーンなどを、大量のダブルを効果的に使って表現していたのが印象的だった。どうでもいいが、原作のブルージュに関するコンテクストはオペラ・演出によって完全に失われているのに、登場人物全員にブルージュは死の臭いの染み付いた陰気な街!みたいなボロクソ歌われているのな可笑しかった。ブルージュに何があるんだ。


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